| 伊藤志織の日記 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【9】 【10】 |
| 【1】1997年05月24日 08:15 なにを書けと |
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おはようございます。 現在1997年5月24日。時間は早朝であります。 これを見てる貴方は、どんな朝を送っておられるのかな? うんうん。 へぇー、そうなんだ!(←N*K教育風) インスタント・コーヒーでも入れながら、TVの占い師に悪態を吐いたり。 そんな素敵に平凡な朝を迎えられた事、羨ましく思いますわ! …って、何を書いてんだアタシ。 落ち着け……落ち着け。 うん、とね。 これは多分だけどね。……多分よ? 「1997年5月24日の日本」と限定させて頂けるのなら、 アタシは全国で一番、最低で最悪な朝を迎えた自信があります。 少なくとも、10位内にはランクインする。絶対に。 それを証明するのが、この日記だ。 面倒臭がりなアタシが、朝に弱いアタシが、単位落としそうな(以下略) 学校遅刻を覚悟して、悠長に日記なんて書き初めてんだから。 個人的には、「世も末」とか「明日は雪」なんて表現がジャストフィット。 そんな奇跡について。 モノグサな私がどうして、日記なんかを書いているのか。 分かりやすくまとめる為に、少々、自分語りさせて下さい。 理由はシンプルなんだ。だって「たった今、書けって言われた」だけだから。 でも、それだけじゃ前後が繋がらないじゃない? ……だから、ちょっとだけ。 アタシの名前は伊藤志織。女。 人生関係者各位には「おしり」の愛称で親しまれている。 今春、アタシは東京都内の某一流大学に(補欠)合格。 出身が福井なので実家通いが出来ず、都内のアパートを借りて一人暮らしをしている。 浪人もしていないので、ピチピチの18歳。 肌ツヤツヤ、引き締まったバディ、ヒロスエを意識したキュート・ヘア。 まさに、取れたてピチピチの蟹料理である。 (料理人不在の為、正確にはただの蟹である) 以上を踏まえた上で、もう一度、理由を考えてみよう。 私が今、日記を書いている理由だ。 ・「たった今、書けって言われた」から。 先に述べたが、アタシは一人暮らしだ。 この部屋に、アタシ以外の住人がいる訳がない。 おまけに、誰かが遊びに来ている訳でもない。 今、この部屋には「アタシしかいない」のだ。 さぁ、ミステリー。 アタシは「誰に」日記を書かされているのか。 この犯人が分かるかな。明智君。 ……正解は誰にも分からないだろう。 蓋を開けてみれば、ほぼ解答不可能なオチである。 犯人は「アタシ」なのだ。 「アタシ」が「アタシ」に、「日記を書いておけ」なんて命令をしたってワケ。 ……つまり。つまりね。 オカルトとか、自己啓発の類じゃないの。 目の前には、確かに「アタシ」がいる。そして「書け」って言ったの。 だから、アタシは日記を書き初めたの。 落ち着け。落ち着けったら。 ……あー、混乱してる。言ってる事もメチャクチャだー。 頑張ってちゃんと書こうとしても、書けない…。 現状が現状だしな。性格もあるし。あばば。 ともかく、超常現象発生初日の日記は、これぐらいにしておこう。 今は、とりあえず学校に行った方が良い。 1限の児童心理は先生が甘いから良いけど、2限の法学はそうもいかない。 ……頭を冷やすにも、もってこいの科目だし。 家にいる「アタシ」を放っておいても平気だろうか? ……それだけ、心配だけど。 「なにもしないから、平気だよ」 という「アタシ」の言葉を信じて、これにて……ドロン。 床に伏せた、血だらけのアタシを眺めながら |
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| 【2】1997年05月25日 07:47 彼女のこと | |
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今朝、平凡な夢を見た。
アタシは寝ぼけ眼で、ベッドの下に手を忍ばせて、 床とベッドの狭間に仕舞っておいた最新の週刊誌を取り出していた。 閲覧。途中、大好きな主人公が急展開の餌食にされたもんだから、 「ええい、ままよ」と頬をつねってみる。 夢の中でも頬はジンジンと痛んでて、 それがあまりにも痛くなって、アタシは目を覚ました。 今朝も、非凡な現実があった。 アタシは寝ぼけ眼で、ベッドの下に手を忍ばせて、 床とベッドの狭間に仕舞っておいた最新の週刊誌を取り出していた。 閲覧。途中、大好きな主人公も、その台詞すらも確認出来ないほど、 週刊誌がどす暗い赤色に染まっていている事に気づいて、 「ええい、ままよ」と頬をつねってみる。 痛みを負った。 ……なんだか要らぬ損をした気分で、現在に至る。 ああ、夢の中でほっぺたをつねって 「痛い……これは夢じゃないんだわ!」 ↑この理論を最初に提言した奴が憎い。 夢でも痛いっつーの。意外と忠実に再現されやがるっつーの。 さて、つまり機嫌が悪いのです。 それもこれも、全部「アタシ」のせいだ。 「アタシ」と言っても、昨日からベッドの下にいる「アタシ」 国道線にたゆたうウルトラマン人形みてぇに折れ曲がった身体の、 ダ*エーの鮮魚売り場に陳列されてそうな表情をした、 なんというか、残念な「アタシ」だ。 彼女は一体、何の目的があって……恨みがあって、 アタシのアパートの、しかもベッドの下などという「それっぽい」場所に居着いたのか。 それは、アタシにも分からない。 ホントはしたいんだけど……彼女は「アタシ」なので、 110番や119番とかも出来ないでいる。 警察に連絡して「双子殺しの冤罪」とか着せられるのもメンドイし、 119番して「アタシがアタシになる」ってのも、なんだか気味が悪い。 事実だけあって、前提が何もない。 だから当然、説明なんか出来るわけがない、現状。 ああ……厄介。ホント。 日記を書けと言われたのは今日で二回目だが、 相変わらず、こんな事しか書くコトもなし。 …。 ………うーん。 せっかくなので。 昨日の晩、彼女との会話に成功したので、内容をメモっとこ。 ……酔っ払ってたから、うろ覚えだけど。 ■昨夜、彼女との会話 (状況) 学校から帰宅後、シャワーを浴びてから、 アタシは買ってきた500mlビールを3缶あおる。 ベッド下の彼女を忘れたいが為の行動だったが、 逆に興味を注いでしまった模様(自慢じゃないがアタシ、酒癖悪し) (彼女の言葉) ・彼女の名前は伊藤志織(=アタシ) ・彼女は、会話をする事が出来る(但し、あまり呂律は回ってない) ・彼女は、右足部を複雑骨折、腹部あばら骨に数カ所のヒビ、喉元に大きなアザがある ・彼女は、歩く事が出来ない(足部骨折の為) ・彼女は、首吊り自殺したらしい ・彼女は、死体である ・アタシは、近い将来、彼女になる ■余談 ・今朝も、ちょっと会話↓ 「朝食とかは?」 「平気だよ」 ……馬鹿な事を聞いた。
ほぼ死体観察日記になりつつある、この日記。 彼女の事にも、ずいぶん慣れてきた気がする。 この感覚は小学校の時、 父親が野良犬を拾ってきた次の朝に似ている。 我が家にやって来た初めての動物。 学校から家に帰ると、聞き慣れない鳴き声と、 ドッグフードの匂いが少しだけして。 自分の家なのに、まるで異国のテーマパークにいるみたいだった。 餌をあげたり、公園を散歩したりして。 異国の地を、クレパス調のアタシとマリがじゃれ合う。 ステキな毎日だ。 でも次の朝。 学校に遅刻しそうなアタシは、 唯むしゃむしゃと、ゴハンを頬張っているのだった。 次の朝も、次の朝も、ゴハンを食べたり。 或いは、なにか違う事をしているのだった。 あぁ、つまり、慣れ……って事。 目の前に転がる「血まみれのアタシ」は、 明らかに夢やアニメの住人のようだけれど…… 学校から帰ったり、TVを見たり、お風呂に入ったり、 眠ったり、起きたり。 話をしたりしているうちに、彼女の存在に耐性が出来てしまったんだ。 彼女は、意外とフランクな奴だ。 さすが「アタシ」だけあって、アタシと趣味も合う。 地味な違いはあるけどね。例えば、アタシの一番好きなビートルズの曲が「brack bird」なのに対し、彼女は「savoy truffle」だったり。一番好きなFFシリーズは、アタシの4に対し、彼女は10だったりする。 …ていうかなによ10って。 まだ8も出てないっての。その辺り問いつめても、彼女は「秘密ッス」と意味深な語尾付けをして、笑うだけだ。 FFトーク余談。 スクエアとエニックスは合併して「スクエアエニックス」になるらしい。…彼女は、こんな分かりやすい嘘もつく。 明日は休日。 今夜はゆっくり、チューハイを飲む予定。 ……死体ちゃん、付き合ってくれないかな。 半ば、やけっぱちになりながら ――wrriten by おしり |
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| 【3】1997年05月26日14:37 着信 | |
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押し入れに眠っていた小学校の卒業文集より。
written by 6年1組 伊藤志織 ――前略、頭痛が痛かったのですが、後略―― この誤字に気づいたのは、確か高校二年の冬ぐらいの事。 小学校時代の同窓会……と称した、付き合いの長い友達との集まりで、 卒業文集の見せ合いになった、その時である。 「頭痛が痛い」なんて今は使わないのに、 友達はアタシが「未だに頭痛は痛いもの」と思っていると勘違い、 大笑いされて、なんか、すっごい恥ずかしい思いをした。 卒業後も会っていた友達だって、これだもん。 小学校時代の同級生だった人たちは、 アタシの事を「恐ろしく国語力のないヤツ」だなんて、思っているんだろう。 そう思うと、ちょっぴり悔しいね。 よく一緒にノコサー(放課後に残ってサッカーをする事。造語)をした八百屋の橋本君や、 親の都合で引っ越した、チェックズボンがよく似合った恵美ちゃん。 乗り物酔いが激しい錦君。足が速かった祐子ちゃん。等々へ。 アタシは頭痛がしたとしても、決して痛くはなりません。 もし生きていたら、一つ、よしなに。 休日。 アタシはベッドの脚に腰掛けて、 二年ぶりに開いた卒業文集を読み上げていた。 隣には死体がいる。 死体は、ベッド下から手を伸ばして アタシの腰元にあるスカートのフリルを指で弄りながら 小学校時代のアタシの文集を、多分、聞いてくれていた。 そもそも、 「小学校時代の文集を見てみたい」 なんて言い出したのは、死体の方なのだ。 昨夜の杯、我々は大いに盛り上がり 昨今のゲーム事情や音楽トーク、高校時代の恋人について語りあった。 その中で、小学校時代の思い出が話題にあがると死体は、 「これはハズバナ(恥ずかしい話の略)なんだけど、さ」 と、この文集の事を語りだしたのだ。 …つまるアタシも死体が言い出すまで、 こんな些細な事なんて、実はすっかり忘れてしまっていた。 文集を聞いて、死体は満足気だった。 死体自身が口に出して言ったワケじゃないけど、 アタシが文集を読み初めてから、読み終わった後で 「フリルを弄る速度」が違っていたので、 多分これは満足しているのだろうね、と勝手に判断した次第だ。 文集を読み終わってから、死体は言った。 「会いたくなった?」って。 この言葉に、アタシは少し躊躇う。 それは“WHO”の部分について。 「会いたくなった」のが「小学生のアタシに」だったら、どうしようと。 彼女はSF的動物だから。 そんな、いらぬ心配まで考えてしまうのだった。 ま、結局、杞憂だったけど。 彼女が「会いたくなった?」の後に発した言葉は 「小学校時代の友達に」だったのだ。 限りなく普通の質問に対し、 「まぁ、会えるもんならね」という普通な返答をした。 返答を聞いてから、死体は言った。 「あい」って。 この言葉に躊躇いはなかった。 だって「あい」って言うのは、 「アタシが級友に会いたくなった」って事に対する頷き、って解釈しか出来なくね? 普通。 でも、彼女はSF的動物だから。 「14時12分、着信アリ」 090から始まる未登録番号を思いながら ――wrriten by おしり
……タイムリー。 昼、死体の希望で小学校の卒業文集を読み上げた。 その後、死体に「小学校時代の友人に会いたいか」と聞かれ。 アタシは「会えるものなら」と返す。 死体に「あい」と言われた後、アタシは風呂に入る。 そんで、風呂上がりに携帯電話を覗いたら、これだ。 …携帯に、未登録の着信。090から始まる。 タイムリー……「何か」を感じずにいられない。 つまり、死体が引き起こした……天文学的「やらせ」とでも言おうか。 ただの「偶然」 その一言で片付けられれば、どれほど良いか。 ……否、ただの「偶然」 その可能性だって、実は捨てきれないのだ。 それなのに、アタシは「何か」を感じてしまう。 ……まるでポリエチレンで出来た福袋のように、 「何か」は、つまらなそうに……アタシにこう囁きかける。 「間違いないから」って。 あー、 くそっ、 ともかく、 電話しよう! 通話ボタンを押す前に、死体の事を覗いてみた。 死体はベッドの下で、アタシのMDを勝手に聞いていた。 うなだれた首もとから、髪の毛に似たヘッドフォンが伸びる。 ヘッドフォンの奥からは、マーカス・ミラーの洒落たスラップだけが聞こえてきて。 死体はそれに合わせるように、指で16ビートを刻んでいた。 話しかけようと思っていた。 だけど、口よりも指が出て居たのな……。 耳元に当てっぱなしだった携帯電話に、ダイアル音が響いていた。 ダイアル音が終わる。高い声。相手の名前は……… 昨日の日記にも少し書いたが、 アタシには小学校4年まで、よく遊んだ友達がいた。 チェックのズボンがよく似合う。彼女の名前は、福田恵美。 電話口の向こうの、高い声は、その名を名乗った。 理由。 偶然にも、我々は同じ大学に進んだ……らしい。 恵美は、テニスサークルの先輩(=アタシの所属する漫画研究サークルの先輩。この先輩はサークルを幾つも掛け持ちしている)からアタシの名前や出身、特徴を聞いて、もしかしたら……と思ったらしい。 先輩からアタシの携帯番号を聞き、思い切ってかけてみた。 …のだそうな。 恵美は「明日、会ってみない?」と言う。 断る理由が無かったので、アタシはOKする。 そして、現在。 アタシは、鬱向きがちな休日の夜を過ごしている。 だが、少しだけ……休日としてはレアなワクワク感が残る。 素直に嬉しい事だな。……色々とひっかかる事があるけど。 ひっかかりの原因、死体は。 結局、未だに音楽を聴き続けている。 流れる曲は、ビートルズの「While My Guitar Gently Weeps」 ヘッドフォンからは、クラプトンの泣声だけが響いている。 ――wrriten by おしり |
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| 【4】1997年5月27日07:07 福田恵美 | |
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福田恵美を名乗る女子大生と、大学食堂前で落ち合って、話をした。
彼女は文学部(ちなみにアタシは理工学部)なので、 履修科目……ましてやキャンパスまでアタシとダブる事がなかった事には納得がいった。 福田恵美を名乗る女子大生はアタシに、 引っ越した先での出来事や、好きだった男の子、 給食最強はホイル蒸しである事など、話した。 アタシは彼女に、知りうる限りの同級生の近況や、 ロッカーに眠り続ける揚げパンの現在予想などをした。 アタシはロマンチストで、彼女はリアリストだった。 だからかもしれないが、アタシ達はとても楽しい一時を満喫する事が出来た。 …でも、結局。 アタシの中で、福田恵美を名乗る女子大生が、 「本物の福田恵美」であるという確証は持てないでいる。 例えば彼女が、「福田恵美を名乗る誰か別人」と言われても否定出来ないし、 「本物の福田恵美」だったとしても、やっぱ、それを否定できない。 福田恵美は、まるで、雲みたいだった。 遠くから見定めればソレと分かるものの、 近寄って見ればみるほど、その基準が何かに変わり、ぼけていく。 彼女は福田恵美で、あとの全ては雲か水蒸気だ。 それだけは確かだ。 感想をまとめればそれだけの事だけど…… それだけでまとめて、果たしていーんだろか。 過去の彼女は、死んだのだろうか。 ふと、そんな駄説が浮かんだ。 説というよりは物語か。突き詰めてアイデアを練っていけば、 一冊の売れない小説が出来上がる、そんな類の発想だった。 例えば時限式果実爆弾を開発した短命の文豪が、 隔靴掻痒とする夜、やけ酒をあおりながら、適当な藁半紙にこう書き散らす。 ――ベットの柵の下には、屍体が埋まっている! その程度だ。 その程度の発想なんだ。 そこに美も醜悪も幻想もありゃしない。 ただ0〜24%ぐらいの可能性から発生した事実を記した一説。 丸められ、ゴミ箱の中で眠るべきアイデアが、これなのだ。 ……でも、もしも。 過去の彼女が、彼女の部屋のベッド下に埋まっているとしたら 彼女は、チェックのズボンを履いているのだろうか。 彼女は、チェックのズボンを履いているのだろうか。 ――wrriten by おしり
恵美に「アタシに連絡した理由」をさりげなく聞いてみたけど、 先輩に関連する以上の話は聞く事が出来なかった。 つまり昨日、 恵美がアタシに連絡を入れたのは、完全なる「偶然」だった… そういう事になる。 ……。 本当にそうなんか、な。 MDが止まったタイミングで、死体に一連の確認を取ってみた。 彼女は、まず「アタシは24だから、さ」とさりげなく呟いてから、 「偶然の0〜23はアタシに劣るんさ」 と、言った。 ――偶然の0〜23は、24(死体)に劣る。 なんのこっちゃ。 ……いや、まったくをもって、ハァ? って感じ。 偶然の範囲を0〜23とするのなら、そりゃ24は「偶然」をも凌駕するんだろう。 (偶然=0<1<…<22<23) < 24 = 死体 だとするなら、ね。 … じゃあ…… じゃあ……何なんだ……そもそも……「24」って。 アタシが、そう尋ねると、彼女は、 「偶然を『ジャングル』とするなら、キミは『野生猿』だ」 「その例えで言うと、 さしづめアタシは……『携帯電話』ってところかな」 と言う。 … ……………………。 もう少し死体の説明は続くんだけど……今はこれが限界。 私なりの考察を入れて書いているので、根気がいるのだ。 なにせ、死体の説明は気が違っていないと理解出来ないから。 頭がスッキリしたら、その時に改めて。 まとめようと思う。 ――wrriten by おしり |
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| 【5】1997年5月28日19:11 まずい |
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今夜は死体の「24論」について、
まとめようと思ってたんだ……今の今までは。 いま、携帯電話が鳴った。 サークルの先輩からだった。 「――(笑)」 「――」 「――(笑)」 「――」 ……さて。 数日前から自分の死体に振り回され続けてるアタシだけど、 ある種の「余裕」みたいのは常にあって。 それは、アタシ自身友達が少ない…… という事から得られる「余裕」に他ならなかった。 自分の殻に籠もりがち、ともまた違くって。 人間関係は浅く広く…ってのが、 心地良いと思えるタイプなんよ、アタシは。 で。 なにを書きたいのかというと、 この大学生活1ヶ月間の中で、 アタシのアパートに誰かが遊びに来る事なんか、 皆無だったってわけ。 そう。今日までは。 ・時間 5月29日 午前0時くらいから ・メンツ 大学の先輩×4 福田恵美 恵美の友達×2 ・やること 朝まで鍋パーティ ・場所 アタシのアパート ……さて、どうしよう。 ――wrriten by おしり |
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| 【6】1997年5月29日08:13 だNじeぶ | ||
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だNじょぶ Nま みWなかえて あたU 者く がっZう やす*だろ (ゑUーのみすぎた え&*したい、だNじeぶだたe みWな、だNじeぶだった ごあWUWUろ あたU U”ゃ、そうN3Zとで
午後14時。 橙色の奇妙な生物に肝をウラから舐められている。 そいつは名前を「ギグモ」といい、 ![]() こんな格好をしていた。 ギグモは、過剰に分泌された胃酸により生成される「胃の皮」を主食としている。 ヤツは目の上に付いた腕を器用に操り、胃の中をかけずり回る。 そして、皮を見つけると顎を下ろし、静かに凹凸の部分を舐め始めるのだ。 その間は、しっとり。 しっとり、とした不快感を寄生主は味わう。 ギグモに肝を舐められると、胃の中のムカムカし始める。 そして太股からつま先まで、軽く痺れ。 慢性的な吐き気。 頭痛だって痛くなる。 ** 断片的な記憶。途切れるまで。メモ。 メンツが揃ったのは午前0時30分頃。 予定より早く集まったのは、それより前に彼女たちがしていた「予定」が早く切り上がったからとの事。 アタシはそれまで「死体対策」に追われていた。 0時。先輩から連絡がかかるまでその立案に追われ、 結果的に25分内に対策を完了させた。 衣服をベッド下に突っ込む、というお粗末な対策だった。 ベッド下は、 ![]() こんな感じになった。 ここだけ汚れているのも変なので、それから部屋全体にモノを散らかした。 24時30分頃、メンツ来訪。 アタシの部屋を見て第一声、「散らかっているね」と放つ。 24時45分頃、準備が整う。 鍋を作る役を任された面々以外は、すでに酒を始めている。 (乾杯、といった作法に無頓着なのだ、我々は) 24時45頃、我々は鍋を食べる。 アタシは酒を煽りながらも、ベッド下の動向を常にチェック。 メンツはベッド下に埋まる衣服に違和感を抱いていないようで、ノータッチ。 死体も死体で、黙ってくれている。 「迷惑をかけるつもりはない」というのは、本音なんだろうか。 アタシは、死体に対する猜疑の目を少しだけ解いてもいいかな、なんて考える。 25時頃。 先輩にまばらな前髪を褒められる。 ヒロスエを意識したアタシの髪型であるが、実はモデルのはなちゃんもブレンドしておるのだ。自分で切ったのか訪ねられたので、アタシは自分で切り始めた事、最終的には美容院に行った事を順を追って説明する。 余談だが、福田恵美はベリーショートにするつもりらしい。 ただ、髪を切りに行こうとした前日、喫茶店でベリーショートのオバハンを見てしまったらしく、今は大変悩んでいるそうな。 26時。 トイレに発つ。 なんでこんな事を覚えているのかというと、トイレに倒れている先輩が邪魔で用が足せなくて、それが印象に残ってるから。 その先輩は酒に弱い癖に飲みたがる人で、飲み始めの段階から「私は孤高なトイレの住人よ」などと気の利いた冗談をやっていたので、こちらもさほど気を遣わずに済んだ。 26時過ぎ、酒が切れる。 コンビニへ酒を買いに行く事に(アタシと福田恵美が立候補する。恵美は知らないが、アタシはいいかげん用を足したかったのだ) 26時45分頃、コンビニへ。 福田恵美もやはり、用を足したかったらしい。 アタシと交互に本件を済ませ、それから適当な発泡酒とツマミを買い漁る。 26時50分、帰り道。 福田恵美と雑談が弾む。内容は失念。 27時頃、帰宅。 続けざまに飲み再開。アタシが気を効かせて買ってきたつまみ群、 サキイカの臭いから「精液」の話で盛り上がる。 とある先輩の彼氏は、いつも行為中に飲んで欲しいと頼むらしい。先輩はそれを辛辣に斬り捨てていたけど、きっとまたベッドの上で、猫なで声をあげるんだろな、なんて思うと、なんだかなぁと思う。 ノイズ。 ノイズ… …これが限界。 ともかく、みんな、かなり酔ってた。 終盤はほぼ、下ネタだったし。 *** … ……前回の日記について。 起きてから、その読解に頭を抱えている。 多分。 ===================================== だいじょぶ いま みんなかえって あたし 書く がっこう やす(*)だろ くるしーのみすぎた え(&*)したい、だいじょぶだったよ みんな、だいじょぶだった ごあんしんしろ あたし じゃ、そういうことで ※( )は読解不能 ====================================== こんなとこか。 みんなが帰ったのが午前7時の事。 死体の件について、大丈夫だった事。アタシが日記を書いた事。 そんな事を、アタシが綴っている。 多分な、アタシ。 …ギグモみたいな、アタシが。 …。 前回の日記を記したのは、アタシだろうか。 それとも…… 今朝、ベッドの下を見ると ![]() こうなっていた。 これは、つまり……そういう事なんだろうか。 だとしたら、この偶然は…… ===================================== だ い が く え み ご じ ====================================== ……やっぱり、天文学的やらせなんだろうか。 ――wrriten by おしり
大正解、君は天才だ。たぬき。 大体合っているよ。 縦に書き込んだメッセージもビンゴ。 何か感じたのか分からないけど、大学に向かってくれたんだよね。 サンキュでーす。 ――キミはアタシに気を遣ってか、 ベッド下に日記帳とペンを置いて、大学へ向かってくれたね。 この件、本当に感謝な。 意外と大変なんだよ、折れた足引きずってテーブルまで行くのも。 単純にすっげー痛いしね。 道中、脳味噌のネジと名も無き臓器の一部が壊れちゃって、 雑な事しか書き込め無かったこと、お詫び申し上げますわ。 ――アタシがキミに話した件について …キミ、すっかり忘れちゃってない? 24のこと。 大事なことなんだから、アタシからメモしておくよ。 キミのとっての「24」とは、アタシの事。 つまりアタシは「24」だ。 基本的にアタシは「携帯電話」で、キミは「猿」なんて表現の通り。 「携帯電話」は「猿」には使えません。 「使うべきモノ」が使えば凄く便利なんだけど、猿にはそれが分かりません。 例えばアンタが「バナナが欲しい」と思う。 ならアタシは「バナナの在処」を探し示す事が出来る、ツールなのだ。 でも、あんたは猿なのねん。 いいかい、アタシはあくまで「携帯電話」なんだ。 「ドラえもん」というワケじゃないんだって事、分かって欲しい。 偶然という名の「ジャングル」に住む猿の元に、ふと携帯電話が舞い降りてきた。 これが現状ね。 だけど、安心して。生物は進むモノだから。 もうすぐ、キミもアタシになる。 言うなればキミは、22とか23とか…その辺りなんだよね。 …それで、これが一番大切なことなんだけど。 「24」になってからでは、遅いんだ。 だからアタシは今ジャングルの中にいるし、五体不満足な身体でキミと会話をしている、というワケ。 …いいかい。 アタシは「24のアタシ」だ。 だから当然、「24の世界」ってものも知ってる。 「24の世界」はね…カオスだよ。 それこそ、どっかで蝶が飛ぶだけで台風すら起きてしまうほどさ。 「24」に関するアタシの説明を聞いて、キミも混乱していたけど…それは当然だと思うよ。 だって、24は、そんな世界なんだからね。 つまり、何が言いたいのかと言うとね。 止めて欲しいんだよね。 「24の世界」を、外して欲しいんだ。 来るべき「24の世界」の存在を否定して欲しいんだ。 アタシの存在も含め、ね。 で、具体的にどうするかってーと。 それが今日の「偶然」に繋がるワケだよ。 *** キミがこの日記を見てる時、 もう福田恵美と出会った後だと思うから書いておくよ。 今日の彼女は「24の福田恵美」だ。 キミや世界よりも先を進んでいるんだね、あの子は。 だから逆を言えば、「世界としては、まだ間に合う」んだ。 …なぁ、24より前のアタシよ。 ちょいと、偶然を超えてみる気はないかね? 『あんたが恵美と出会った事』とか、『今日あんたが24の福田恵美と会う事』みたいな。 そんな広大無辺の偶然群から、「外れてみる」気はないかね? 外れてみる気があるのなら、彼女の事を可哀想と思うだけじゃ駄目だ。 彼女の原因を探らなきゃ、駄目だ。 来たるべき24の訪れを防ぐための問題 福田恵美の 頭(name = "lost head") はどこにある? |
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| 【7】1997年5月30日03:34 | ||
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ふと目を遣ると、 ベッド下にあるはずの日記帳がテーブルに置かれていた。 日記帳の横には、グシャグシャになった今日付の新聞紙。 何事かと日記を確認してみたら、この切り抜きだ。 当てつけ、なのだろうか。 警察から帰って、すぐに眠ってしまったアタシに対する。 ――29日の彼女は「24の福田恵美」だ? ――福田恵美の 頭(name = "lost head") はどこにある?? ふざけんな……って感じ。 ファンタジーじゃないんだ。 恵美の身体も、群がる野次馬達も、どよめきも。 延々と続く事情聴取だって。 5月29日は、まったくを以て、 全然、ファンタジーなんかじゃ無かったんだ。 だから、福田恵美の頭は、どこに消えたかって? そんなの分かるわけないだろ!! アタシが聞きたいぐらいなんだ! だって、彼女の頭は、 アタシが廃校舎の屋上から彼女をみた時には、 確かにあったんだから!!! ……だと思うんだ、から。 福田恵美が屋上から飛び降り「自殺」をした瞬間。 第一発見者のアタシは見た。 だけど、本当に、それは「自殺」だったのか? ……警察の人にも散々聞かれた事。 警察の人が散々疑って掛かる、事の焦点。 気持ちは分かる。 だって、彼女の死体には現に「頭がないから」 頭がない人間が、飛び降り自殺できるか? 自分でチョン斬って飛び降りた…? 仮にそうだとしても、屋上には何もなかったから。 だから、警察は疑ってかかる。 『友人との関係のモツレ』だなんて、 陳腐なシナリオを表情に浮かべて。 アタシは見たんだ。 頭もあった…はずなんだ。 信憑性はないけど。 誰か信じて。 疑いの目を感じるよ、警察の。 もう、何なんだよ…… 何なんだよ……死体! どうして昨日から何も答えてくれないんだよ! 昨日の日記には流暢に書き込みしていたくせに! どうして何も答えないんだよ!! …ベッド下に日記を置いて、もう少し寝ようと思う。 …ベッド下に置いておくからな。 …ベッド下に。 だから くそ死体、なにか書き込め
事故後の世界を知ってるかい? それまでと同じなのに、それまでとは何かが根本的に違う。 そんな世界の事だ。 例えば、こんな世界。 車で帰宅途中のサラリーマン。 彼は車内で思い浮かべる。 ソファに飛び込んでラガーのプルトップを引き抜く、帰宅後の姿。 ツマミに、と事前に買っておいたナッツに口笛を聞かせながら、 聴くブルーススプリングスティーン。 アルコールとナッツとエアギターを以て得る、至福の一時。 これは、事故後の世界。 彼は人気のない路地裏で、横断歩道の概念を忘れた老人をはねた。 血塗れで動かない老人と、真っ青な顔の彼。 病院に搬送した後、延々と事情聴取、免許剥奪の罰則。 家に帰って聴く、無音と老人の呻き声。 うん。 24の入口は、ほんのちょっとだけ そんな「事故後」の世界に似ているような気がするんだ。 現実に置き換えると、今のアンタが「それ」に片足を突っ込んでいるようにね さっきの例で言うなら…「老人が横断歩道を渡らなかった」という事。 その事と「恵美の頭が消えた」という事はね、似ているんだよ。 つまりね。 「なんでそうなったのか」なんて事は、誰にも説明出来ないんだ。 でもキミは、恵美の頭が「多分」あったと思った。 その点は、すごく筋が良いんだ。 …思い出してみて。 どうしてアンタは「恵美の頭はあった」なんて思ったんだ? 多分、それが「24の入口」じゃないのかね。 イケイケ ゴーゴー(^o^) 追伸: アタシが喋らなくなったのは、良い兆しと捕らえてくれい。 今はそれだけでオーケーよ。 今後、長ったるい説明は日記の方でさせてもらうから。 あと名前書き込めよ、ちゃんと。 |
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| 【8】1997年5月31日05:26 結論 | |
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布団に寝転がりながら、ひたすら考えた。
ようやく結論が出たので、ここに記そうと思う。 5月29日、17時。 恵美から連絡が入り、向かう廃校舎。 入口を見回すアタシと、鳴る携帯。 通話。 恵美の声。 屋上と 恵美と 落下。 目を伏せるアタシ。 彼女の 頭(name = "lost head") 分かったんだ。 どうしてアタシは「彼女の頭があった」なんて思ったのか。 一つは、上にも書いた事。 ――入口を見回すアタシと、鳴る携帯。 ――通話。 ――恵美の声。 そう。 恵美は飛び降りる直前まで、アタシと電話していたのだ。 彼女は、電話口……泣き出しそうな声で、こう言っていた。 「助けて」 って。 なにか悩んでいた事があったのか……それは分からないけど。 ともかく、その一連の動作には「頭が必要不可欠」である事は、言うまでもない。 そしてもう一つ。これは決定的な記憶。 アタシは「見たんだ」 廃校舎の屋上に佇む恵美の、その頭「らしき」ものを。 …やめよう。頭「らしき」なんて。 そんなSFじみた話じゃないんだ。 アタシが屋上を見上げたとき、そこには確かにいたんだ。 「何かを被った」彼女が。 ![]() ……紙袋、のようなもの。 薄茶色で四角辺のそれは、ゆらゆらと風に揺れていた。 ……多分……。 なにせ、その時は恵美の頭に注目なんてしてなかったし、 そもそも、あんな事があったんだ…… 詳しい事の一つ一つが、本当にそうだったのかなんて、きっぱり言う事は出来ない。 だから、今でも少し自信ない。 でも、頭関連で考えられる「異常」は…これ以外に考えられない。 なにせ本気で一日中唸ったんだ。 携帯を耳にあてる、紙袋を被った福田恵美について。 ……状況を整理していたら、ふと、こんな憶測が生まれた。 ――「アレ」は本当に、福田恵美だったのか? その憶測は、全てをうやむやにしていく。 例えば、電話にしても。 「助けて」 ……「これから自殺する人間」としては、ありふれた内容。 現に彼女は屋上にいて、そんな言葉をあげて、飛び降りた。 その一連の行動から……アタシは、勝手な勘違いをしてしまったのではないか……? つまり、 「助けて」 彼女のこの言葉は「何かに苦悩した末に出た最後の言葉」ではなく。 そんな先入観を超えた先にある、もう一つの「可能性」 つまり、恵美が「殺された可能性」…だ。 @犯人は何らかの方法で恵美の声を入手、録音する A恵美の首を落とし、殺害 B恵美になりすまし「紙袋を被って」屋上へ C録音した音声を携帯に当てて、アタシに聴かせる D死角から死体を突き落とす 脆弱、身勝手な推理。 ……だけど、一応の筋は通るんじゃないか? 少なくとも「飛び降りる瞬間、頭が"24"になりました」ってよりは、論理的だと思うがね。 なぁ……死体よ。 アンタはアタシの周りに起こる、幾つかの「偶然」を当ててみせた。 アタシは夢想して「天文学的やらせ」なんて書いちゃったけど…… 訂正させてくれ。 アタシの出した結論。 あんたが当ててきた「偶然」は……「やらせ」だ。 ・アンタがベッド下に現れたこと ・恵美から電話が来たこと ・17時に学校へ行けと言ったこと ・アンタが死体であること ・恵美の消えた頭 ・24の世界 この全て……実は、説明出来るんじゃないか? アンタの主張する「全てを知っている」という言葉は…… 「SF」じみた事じゃなく、もっと「現実的」な事なんじゃないか? 24の世界は「起こる」んじゃなく……「起こす」んじゃないのか? そんな、結論。 なんと穴の空いた結論だこと……次回の日記で、アンタは笑っているのかもしれないね。 だけどね死体。仮にアタシの結論が「ただの妄想」だったとしても、 アタシは後悔しないと思うんだよ。 ……少なくとも、「24」の存在に対して途方に暮れているよりはね。 「どちらにせよ全てを知っている」死体さん。 笑いたきゃ笑ってくれ。「どちらにせよ」アタシは、この結論を信じるつもりだから。 この結論を信じて、アタシはアタシの「やりたい事」をする。 ……文句は言うなよ。どうせ「アンタが望んでいる事」と方向は同じなんだからね。 「24の世界」が証明されたその時、アンタを信用するよ。 だけど、それまでは……アタシは、アンタと「24」を否定し続けるつもりだ。 探し出す……「彼女の頭」を。 恵美の頭を消した「紙袋の女」を、見つけ出してみせる。 アタシは恵美の為に。死体にとっては24回避になる。 ……どうだい。そう考えると、悪くない結論だろう? …てなことで。 日記を床に置いて、今日は学校に行くよ。 アタシが学校に行ってから、アンタはこの書きこみを見るんだろうから…… これだけは、言っておくよ。 「アタシの意見は、あんたとは違う」 恵美を殺したのは「SF」なんかじゃない。「誰か」だ。 ……それを暴いてやる。嫌疑をかけられたアタシと、もういない旧友の為に。
それで良いんよ。 結局ン所、アタシとあんたは反対の方向を向いてんだから。 アタシとあんたが同じ意見を共有する事なんて、あったらダメなのさ。 ほいで「やらせ」の真相ですが。 今は伏せておこうと思うよ。 厳密にあ「やらせ」の事なんてどうでもEんです。 だって真実を「真実だぜベイべー」などと断言する必要なんて、どこにも無いでしょう。 昼頃たまにNHKに顔を出す背広着たオッサンどもが良い例ですわ。 彼らは「いかにそのバランスを取るか」で商売をやっているじゃん? しかも国代表してさ。 つまり、アタシ、あんたの結論に異議なし。 世界を24じゃないと思ってるなら、そう思ってくれ。 それまでは自分の思うまま進むが良いわ。ザッツ青春。 アタシが喋らなくなったこと、良い兆しと書いたよね。 どうやら、それは着々と進行しているようだよ。 なんで分かるかっつわれても「経験上」としか言えんがね。 「経験上」には無いことが続いているのだ。 だから、アタシはあんたを誇りに思っているのよ。 さすが伊藤志織。さすがアタシ。ユーアー、スーパー美人。 |
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| 【9】1997年6月1日07:10 違和感 |
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学校は想像より平和だった。 屋上から生徒が飛び降りた「その後」というモンを覚悟していたんだけど、 その想像は思ったより漫画に寄っていたらしい。 キャンパスからは「福田」という名も「恵美」という名も聞こえてこない。 周りの友達も同じ。口から出る言葉はテストや単位や恋愛の事ばかりで、 まるで恵美の話題すらあがらない。 そんなみんなに、少しだけ違和感を覚える。 確かに、在学中の生徒の大半は恵美など赤の他人に過ぎなかったのだろう。 だからみんな、TVを見る感覚でいる……そうとも言える。 だけど、それにしたって。 福田恵美の話題が「挙がらな過ぎ」じゃないか? 一緒に飲んだ先輩達と話しても、その話は一切でなかった。 有り得ない話じゃない。先輩達にとって、それは思い出したくないことなのかもしれない。 でも、それにしたって……。 ちょっとだけ……その「タガ」みたいのを外してみたくなる。 例えば、 ――もしも、友達がカレーライスの話をしている時 ――アタシが、福田恵美の話をし始めたら ――どんな事になるんだろう? 話を裂くなんて事をしなくても良い。 ――もしも、友達との会話が途切れたタイミングで ――アタシが、福田恵美の話をし始めたら ――どんな事になるんだろう? ……文章にして書くと、なんだか不必要に怯えすぎてた気がしてくる。 聞けば良いだけだったのだ。友達にしろ、先輩にしろ。 福田恵美の事なんだけど、と。 だけど結局、アタシはその「タガ」を外す事が出来なかった。 昨日は。……昨日は、だ。 今日。 アタシは恵美の通っていた学部へ行くつもりだ。 恵美の行っていたクラスを調べるのだ。 恵美の事についてもっと知りたいし……この漠然とした不安も、取り除きたい。 アタシは、恵美を殺した犯人を突き止めようとしている。 日記帳に以前、死体が切り貼りした記事が確かに残っている。 確かに死んだのだ。福田恵美は死んだのだ。アタシは疑われてるのだ。 大丈夫。間違ってないよ……。 追伸:旧校舎を調べたが紙袋はなかった ――wrriten by おしり |
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| 【10】1997年6月2日07:05 |
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死体です。 結局、おしりの奴は昨日から帰って来てないんだ。 十中八九、やつは 「今日は別の場所」 にいるらしい。 そこは多分、こちらから語るべき場所じゃないところ。 当然、この日記なんかもなくて。 アタシや、福田恵美なんかもない場所なのかもしれない。 22b…? 23c… 24e…… そこが、どこなのかは分からないけど。 少なくとも、私の知る「24の世界」じゃない事は確かだろう。 奴がここにいないのが、良い証拠だ。 ただ、一つだけ確かな事がある。 今日は……6月2日。 それなら6月2日のアタシ、こと「伊藤志織」は 全てを覚えている、という事だ。 部屋に転がっていた死体の事も。 福田恵美の事も。 5月24日から起きた事、全て。 この日記を持たない伊藤志織は、この日記に書かれた内容を以て、 今日も生活しているはずだ。 この10日の間に起こった違和感に、疑問を覚えながら……。 彼女がこれを夢と思い、一連の出来事を忘れてしまうか。 それとも、引き続き、頭を探すのか。 今のところ、そのどちらとも考えられる事だ。 個人的な願いとしては、是非とも頭を見つけ出して欲しいところだけど。 はてさて、どうなることやら。 偶然やら何やらをぶっ飛ばして、奇跡の一つでも起こしてくれないものか。 事の顛末を、アタシはこの世界から、見守っている事にしよう。 アタシを待つ友人へ ――written by 伊藤志織 |
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