その世界には、「刻（とき）」が存在しない。シャブティ地方トキアラント国に、カシェという小さな山村がある。少年トトは、この村はずれの家で義父マラガス・義妹ポッケと共に平穏に暮らしていた。
　ある日トトは、トキアラント国の女王・アマルナに呼び出される。アマルナは“禁断の地”とされる「アアルの塔」で発見された「歯車」への調査協力を依頼したのだった。「歯車」を拾った張本人・幼馴染のエバンナと共に「アアルの塔」に踏み入ったトトが、そこで目にする光景とは――

　昭和８９年、夏。四国地方某所に位置する田舎町・葦野里（よしのさと）のバス停に、男女の姿があった。
　女の名は竹井瑠衣。西鴎（せいおう）大学に勤める考古学専攻の助教授だ。彼女は自分の教え子（『俺』と名乗る青年）と共に、この地へ訪れた。二人の目的は、葦野里の山奥に存在する円墳「葦野里古墳」にまつわる学術報告書を作成するため。瑠衣は純粋にフィールドワークを目的として。『俺』は単位ゲットの誘惑に釣られ…葦野里へとやって来たのだった。

男は、長い妄想の旅から目を覚ました。そこにあった光景は、退廃した世界。ただ一人、存在するＡＴＵＭと名乗る女性を模った機械。……ただ、それだけだった。