ダブワンな人々。#2「恵方巻」

2月3日は節分。
民宿「あまのや」では毎年、この日には恵方巻が振る舞われるそうです。
円奈から「今晩は恵方巻」と聴いてから、終始ニコヤカな顔をする俺くん
の姿がありました……

登場人物


「あまのや」に宿泊する大学生。エロい。
エバンナ
異世界からやって来た少女。こちらの世界の常識に疎い。
トト
エバンナの友達。疑うことを知らない純粋無垢な少年。
天野円奈(あまのまるな)
「あまのや」の女将。この時期は毎年お客さんに恵方巻を振る舞っている。
ポッケ
トトの妹。前回主役だったので今回は脇役。

 

 

 

 

 

#2
「恵方巻」
さく・ナカオボウシ

 

 

 

 

 

♪お~に~はそっと~ん
♪ふ~く~はうっち~ん

エバンナ
……いやにご機嫌ね
変なキノコでも食べた?

そりゃご機嫌にもなりますよっ!

だって今日は、節分だもの!

エバンナ
それは円奈から聞いたわ
今、この時は貴方達の世界では
縁起が良い時のようね

そう、縁起が良い日なんすわ!
何故かは知んねーけど!

関東民の俺は家庭でも豆まきオンリーだったし
恵方巻が全国区になった今でも、正しい食べ方を
する人間に出会ったことがありませんでした……

でも葦野里(ここ)は西日本!
関西に近いですから!!

本場と言っても過言ではぬわーい!

エバンナ
どうやらあんたの馬鹿騒ぎは、
円奈が『エホーマキ』を作ると言っていたのと
何か関係がありそうね

あまのやの恒例行事とか言ってたし

ああ……恵方巻き……
この言葉に纏う響きの
なんと淫靡なことか……

俺のような残念な関東民は、それを食す姿なんか
イラストでしか楽しむことしか出来なかったんすよ
昨日までの俺、バイバイ……

今日は!
この目にしかと焼き付ける所存っ!
恵方巻きを食べる君達の姿をねー!

 

凛々しい表情で、ビシっとエバンナを指差す俺くん。
自信満々な俺くんですが、エバンナとしては言っていることがチンプンカンプンです。

俺くんの言っていることや様子から、エバンナは俺くんの言いたいことを察するように、探り探り言葉を向けてみました。

 

エバンナ
あんたって
よっぽどそのエホーマキが好きなのねえ

食べ物のことでこんな興奮するの、はじめて見たかも

大好きっす!
全国の神絵師さん毎年ありがとう!

エバンナ
……なんだか
どれだけ美味しい料理なのか
あたしまで食べるのが楽しみになってきたわ

 

……

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時 俺氏に 電流走る――

 

 

 

エバンナは節分の意味を知らない異世界の人間……。
恵方巻きがどんな形をしているのかさえ、
今のエバンナには想像すら出来ないのだ……。

彼女の節分に関する知識は、いわば真っ白なキャンバスのようなもの……「こう食べるものだ」と教えたら、教えの通りに動かざるを得ない……。

 

 

 

 

 

描くしかない……っ!

 

 

 

 


この真っ白なキャンバスに……っ!

 

 

 

 

 

色慾の極致……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


淫猥な少女の絵図を……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しみにするのは良いですけど
エバンナちゃん、恵方巻きを食べる時の
作法をちゃんと把握してんすか?

エバンナ
作法って、テーブルマナーみたいな?
一般的なものは一応習ってるけど

ええ
特別な行事のご多分に漏れず
節分に恵方巻を食べる時にも
ちょっとした作法が存在するんすよ

これをしっかり覚えてから食べた方が
作った円奈さんに対しても失礼がない
と思うんスけどねー?

エバンナ
円奈はそんなことに
目くじら立てる人じゃないと思うけど

マナーを知った上で食べられるなら
覚えるに越したことないわね

無礼に振る舞うことも、振る舞われることも嫌いだから

よろしい……
では、これから俺の言うことを
よく聞いて覚えておいてください

エバンナ
……
うん

まず、恵方巻きというのは
『切らずに食べる』のが基本なんですね

福が逃げてしまうので、途中で噛み切ったら
良くないっていう習わしがあるのですわ

↑これはホント

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エバンナ
ふうん
恵方巻って長いの?

そうです だから口に入れやすいように
皿の上に恵方巻を立てるのが基本なんです
倒れないようにしっかりと握りながら
口を恵方巻の方に持っていくんですよ

↑ここから大嘘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エバンナ
髪が口に入りそうだわ
あたし髪長いから

あ、髪を抑えながら食べても大丈夫っすよ
むしろその方がポイントが高い

エバンナ
そう? それなら良かった
…ポイント?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵方巻を口の中に入れたら
それはもう頬が凹むぐらい
強く吸いこんでください

エバンナ
……なんで?
口に入れたら食べるだけじゃないの?

これには「味をじっくりと楽しむ」
という意味があるんですよ
『いつまでも口に入れていたい
そのぐらい結構な味ですよ』
という態度を、作った相手に
見せるためだと言われてます
だから吸った後には恵方巻全体を
味わい尽くすように、
頭を上下に何度も動かすという
決まりがあるんですね

↑泉のごとくウソが湧き出る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エバンナ
吸いながら頭を上下に……
こう、何度も頷く感じ…?

そうっす
…複雑かもっすけど、大丈夫そうですか?

エバンナ
ええ
教えてくれた作法の通り食べようと思うわ

正直面倒だけど、円奈には敬意を払いたいし

そりゃー良かった……
ンッフフフフフ……

円奈
夕飯の準備が出来たで~

キタキター!
待ってましたっ!

円奈
今日は恵方巻を食べたことない人らが多いけん
いつもより気合い入れて作らせてもらったわい

折角の行事を楽しんでもらいたいからの~

うんうん、すっげぇ太い恵方巻っすねぇ
海苔も新鮮で、黒光りしてらっしゃる…

これは良いものが拝めそうっすわぁ

ポッケ
円奈ー?
なんか、いつもより皿が一杯あるナ?

円奈
ああ
今日は男女別の部屋で食べてもらうけん
それぞれの部屋分の取り皿を用意したんよー

 

 

 

 

 


はぁッ!?

 

 

 

円奈
昔は普通に共同の食事場で出してたんやけど
何度かお客さんに怒られたことがあっての~

円奈
そのことにうちのオバアが逆ギレしてもうて
「男女別にしたら文句なかろうがい!」て……
その習慣が今だにそのまま生きとるんよね

ポッケ
エホーマキを食べると、怒るのか?
よく分からないナ…

円奈
んー……たまーになぁ
恵方巻を食べるとき変な目で見る人がおるんよ
これは男女問わずやとウチは思うでー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円奈
ごめんなぁ、面倒やと思うけど
そんな顔せんでやぁ

 

 


 

円奈
毎年うちではそうさせてもらっとんのよ……
分かってや、たのまい?

 

 


 

 

 

いえ

 

 

ぜーんぜん

 

 

なーんも
もんだいないっす
よー

 

 

エバンナ
ねぇ

 

 

……

 

 

エバンナ
……ねえ
ちょっと、聞いてる?

 

 

は?

 

 

 

エバンナ
さっき教わったこと
トトにも教えといたから

もし失礼な食べ方をしてたら
遠慮なく叱ってあげて頂戴ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亀の間 定員:1~2名様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トト
いただきます~
↑恵方巻を垂直に立てて
しっかりと握っている

………

トト
うわぁ……
すごく大きくて、黒い食べ物だなぁ……

↑手で髪を抑えている

やめろ………

トト
ええっと……
まず口に入れて、思い切り吸いこんで……

やめてくれ………

トト
ううっ……
あひゃまを(頭を)……
ひょうげ…に(上下に)……

 

 

やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

 

その後、トトとエバンナは正しい恵方巻の食べ方を教わり
俺くんは円奈からこっぴどく叱られたという……。

 

 

 

 

~BAD END~

 

 

 

 

 

 

 

 

「節分」

ダブワンな人々。」第二回は、「節分」をテーマにお届けいたしました。
節分といえば、豆まきに恵方巻き。俺くんを主人公に置いてこれらの材料を中心に語らせた結果、やっぱりアレをアレに持っていく方向になってしまいました。下ネタ嫌いな人はすみません。

節分に関する思い出話として浮かぶのは、子供の頃よりも大人になった最近のこと。
姉の子供達(甥・姪)との思い出です。姉は僕が現在住んでいる実家の近くに嫁に行ったものですから、僕も甥・姪と顔を合わせることが多く、今でもよく一緒に遊んでおります。特に一番下の姪っ子(現在幼稚園児)……あの子から「遊ぼ!」なんて誘われた日にゃーもう断れません(笑)自分の子供といってもおかしくない年齢だからか、可愛くて堪りません。自分の子供のように……というと、ちょっと違う感覚な気がしますが、とは言え友達ほど気の抜ける間柄でもなく(子供はすぐ悪さしますから)。ただひとつだけ言えることは、僕はそんな姉の甥姪が「大好き」なのでございます。

そんな甥姪達との節分の思い出は、僕が「豆まきの鬼役をやった時のこと」です。
普段は姉の夫、僕のお義兄さんが毎年鬼役をやっているようなのですが、その年は仕事で家に戻れなかったらしいんです。そんな経緯で姉から頼まれました。

豆まきの鬼役と言っても、厚紙で出来た鬼の仮面を被って「うおーうおー」言うだけかといったらとんでもありません。姉は妙にこだわりを持つところがあるんです。なんというか、徹底的にこだわって、どでかいサプライズを相手に届けるのが大好きな人なんですよね。妥協をあまりしないんです。

そんな姉が用意した鬼の衣装は、

・全身タイツ(赤)
・鬼柄のパンツ
・アフロパーマのかつら
・鬼のマスク(結構グロいデザイン)
・金棒

こういったラインナップとなっておりました。
これらの衣装は、全て姉の家の外で着替えることになります。もしも万が一、家の中で着替えていて子供達にバレてしまっては台無しですからね。

節分当日。夜19時頃。
僕はあらかじめ打ち合わせしていた通り、姉の家の駐車場に自分の車を停めました。
そして打ち合わせ通り、姉宅の隅にある物置の中で鬼の衣装に着替えました。

その後は、車の中で待機という手順です。
怪しまれるといけないということで、エンジンを付けるのはご法度。暗闇の中で身を潜めます。

……2月の気温は、御存知の通りです。夜となると5度を下回ります

姉宅の駐車場には、真っ暗な車が一台。
その中には肩を抱いて震える全身タイツの男がいました。

鬼が登場するタイミングは、姉が電話で合図してくれる手筈となっていました。しかしこれがなかなかどうして連絡が来ないきっと姉は夕食の準備をしつつ、頃合いを見計らっているに違いありません。温かい暖房の効いた部屋で、姉は今頃、人数分のシチューなんかを並べちゃっているに違いありません。羨ましい……だけど数分もすれば、自分もそんな風景の一部に加わることが出来るんだ……。僕はマッチ売りの少女のように、目前に待つ温かな未来を想像することで寒さを紛らわせながら……ひたすら、時が過ぎるのを待ちました。

30分が過ぎました。
もはやここまで待っていると、電話が来るかどうかよりもです。今死なないかの方が重要になってきます。もう自分の身を守ることしか頭に浮かんできません。何か体を温めるものはないだろうか、と周囲を見回しても金棒とマスクとアフロのかつらしか無いこの状況。僕はとりあえず鬼のマスクを装備しました。一枚マスクを被ることで、顔周りの暖かさが違ってくるだろうと期待しました。効果は抜群。自分の吐く息が、顔全体に包むような暖気を与えてくれました。おお……いくらかラクだ。少なくとも顔面に関してだけは、これで多少の暖が取れる……。

しかし顔以外はまだ寒い。そりゃそうです。うっすい赤い布と鬼柄パンツしか着てないんですから。これで寒くなかったら冬とは言えません。もし道行く人が車内にいる僕を見たら「なんで真冬にエンジン切った状態で、タイツ一丁でいるのか」という当然の疑問に頭を悩ませるでしょうが、僕としても「節分なので」としか言いようがありません。

ともかく……どうしたら顔以外の部分を温めることが出来るか。
僕は考えました。目の前には金棒アフロがあります。

僕は、アフロをギュッと抱きしめました

多分ドンキで980円ぐらいであろう、ポリエステル製のかつらです。防寒効果などあるわけがない。それでも僕はかつらを抱きしめ続けました。まさに「溺れる者は藁をも掴む」の心境です。いずれ僕の体から発せられる体温が、このアフロを通じて、全身に温もりを与えてくれる。そう信じて、僕はアフロを抱きしめ続けました。

そしてこの状態で横になり、ひたすら姉の連絡を待つことにしました。
心なしか若干アフロがあったかくなってきた気がするのですが、きっと気のせいでしょう。

身を切るような寒さの中、沈黙が続く車内で寝転がっていると、次第に嫌な想像ばかりが膨らんできました。

……このまま息絶えたら、明日の新聞に載るかもしれないな……。

見出しは「鬼、車内で凍死」とかかな……。

嫌すぎる最期だ……。

せめてベットの上で終わりを迎えたかった……。
仲間に囲まれた中で、一言「チェックメイト、ってか…」とか呟いてゆっくり目を閉じる感じが良かった……。

ああ、なんだか眠くなってきた……。

もう……疲れたよ、パトラッシュ……。

 

――TLLLL!

――TLLLLLLLLLL!

 

……それは、僕のもとに訪れた天使のラッパが鳴る音か……。
いや、朦朧とする意識の中では、聖歌隊の歌う賛美歌のようにも聞こえました……。現実へと続く暖かな光が、その無機質な音の中には溢れているように感じました……。

 

たすかった……。

 

僕は震える手を抑えながら通話ボタンを押し、電話口を耳に押し当てました……。
ガヤガヤと、子供達の騒ぐ声に混じって姉の声が聞こえてきます……。

 

 

 

 

姉「何やってんだよ早く来いよ(キレ気味)」

 

 

…………。

鬼って、現実に存在するんだなぁと思いました。

 

・・・

後日姉に聞いたところによると、彼女は僕に「頃合いを見計らって家に入って来てほしい」と頼んでいたと言います。僕は「電話したら入ってきて」と聞いていた気がしたのですが……。結局、僕の聞き間違いか姉の勘違いかは、今も分からずじまいです。

ともかく姉の一言により、僕は極寒から脱出することに成功。玄関に入ってから「ぐぉおおお~!」と猛り叫び、バッチリ鬼の役目を果たしたのでした。
……まだ小さい甥と姪は、可愛いもので言葉にならない声をあげて泣き叫び、ただただ逃げ惑う様子だったのですが、小学校高学年になった一番上の甥っ子の方はもう慣れっこみたいで。「どけ、私がやる」と言わんばかりにガチなパワーで豆を投げてくるからもう鬼としては溜まったもんじゃなかったです。全力投球の豆って痛いんです、すごく。


豆まきを楽しむ甥っ子(画像はイメージです)
Photo by Kiril Lazarov – Doha Stadium Plus Qatar

 

しかし子供達も思いっきり楽しんでくれたし、姉ちゃんの作ってくれた夕飯もメッチャうまかった! 寒かったけど結局は良い思い出となった、ある年の節分の出来事なのでございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。