理想の姉、現実の姉のこと
 作中に登場する架空世界と現実世界は、パラレルワールドのためよく似ています。更に悪いことに、パラレルワールドを提唱した竹井塔人は、架空の世界と現実の世界を『逆に』理解している変態ナルシストマンです。そのため『架空の出来事と現実の出来事』については、特に誤解や混乱が生じやすい項目であることを自覚しています。
 
 各世界の出来事を正しく認識する指標として、頼りになるのは『年号表記』です。
 ・昭和元号が用いられている世界:架空(ワンダーランド)
 ・西暦(公文書等では平成)が用いられている世界:現実
 
 昭和64年1月7日(改元)以前の事実関係がややこしくなるので、現実世界で起こった出来事は過去のものを含めて、全て『西暦表記』に統一しています。つまり、たとえば『昭和89年』と記載された事実と『2014年』と記載された事実には、この作品上では『架空現実』の差異が生じています。過去における事実、たとえば『昭和59年』と『1984年』の事実も同様に、『架空現実』の差異が生じます。このように捉えて頂くと、以後もそれぞれの事実関係を理解しやすくなるでしょう。少なくともLv.1の範囲において『昭和』と付くものは、ワンダーランド世界上で生じる事実と捉えて頂いて問題ありません。

 本題に入ります。
 竹井塔人の“想い”を基軸に、アトゥムが意志を継承して“見守る”ワンダーランド世界。
 ワンダーランド世界の礎となった竹井塔人の周辺人物は、その性格、身分が現実と乖離した状態(塔人/零次にとって都合の良い状態)で登場する事となりました。
 
 その中でも特に、架空と現実とでひどく人格が掛け離れている人物といえば、塔人の姉。全ての元凶(は、武藤先生か。ともかく)竹井瑠衣です。
 今回は『ワンダーランド世界の竹井瑠衣』と『現実世界の竹井瑠衣』に焦点を当てて、理想姉と現実姉の差異を勘案します。

 早速、作中の事実関係と照らし合わせながら整理していきましょう。
 
 ■竹井瑠衣(ワンダーランド)
 
 職業:考古学者(大学助教)
 異世界編冒頭にある説明の通り、ワンダーランドの住人・竹井瑠衣は大学助教です。
 この文章だけでなく、周囲のワンダーランド住民(須賀、円奈、事務室のオバチャン等)からも、大学助教と認識されている事からも、ワンダーランド世界の瑠衣=大学助教であると断定することが出来ます。

 
 性格:人を慮ることの出来る「天才的奇人」
 葦野里滞在2日目、午前5時48分。瑠衣はトトに、エバンナに対する接し方についてよく考えるようにと諭しました。この瑠衣の投げかけによりトトは、自分とエバンナとの関係について疑問を感じるようになります。
     
 
 恋人:いない
 歯車形碧玉製品の解析結果を聞きに、葦野里歴史民俗館へと向かう一幕より。
 『彼氏の影も見せない』とは「俺」の言葉。ワンダーランドの瑠衣は本職の考古学研究を何よりも愛しておるため、彼氏を作る気持ちがないようです。良い方向に向いている(多分)仕事人間なんですね。
 
 
 特徴:上半身一部の感覚が麻痺している
 異世界編冒頭では『事故の影響により、上半身一部の感覚が麻痺している』と発言。
    
 かつての記憶を持ち合わせても尚“正常な状態”を保っているとする、Lv.1の幕引きとなるシーンでは、自らシャツを引き裂き、肋骨が露出する上半身をさらけ出した上で、『“夢の私”は、お前を裏切らない』と「古河零次」に誓います。
     
 
 ■竹井瑠衣(現実)
 
 職業:OL
 神視編GEAR「『裁判月報』 平成29年11月号(第32巻4号)」より。
 平成29年(西暦2017年)における竹井瑠衣の職業はOLであることが分かります。
 
 
 性格:表面上は良い人。裏では悪の要素を撒き散らす「悪魔の女」
 塔人が零次に向けて書き置いた手紙が根拠。
 これを裏付ける“Real”な事実については、現在のところ、
 
 神視編。竹井塔人の所持していたビデオテープ。  
 
 神視GEAR「GOGO☆MANIAX〜GO宏彦ファンブログ〜」
 などでも確認することが出来ます。
 
   
 
 恋人:須賀
 塔人によれば、恋人の職業は大学教授であると言います。普通に考えれば、該当する人物は須賀頼馬以外には考えられません。
 
 ■竹井瑠衣(判別不能)
 
 1.GEAR「義務感の唄」
 竹井瑠衣の過去を描くこのGEARについては、意図的に「現実の出来事か架空の出来事か」を判別出来ないようにしています。実際のところ、この出来事に関してはある一方の事実として捉えても支障はないでしょう。
 しかし僕としては『現実世界でも、架空世界でも、瑠衣はこの葛藤に苛まれた過去を持つ』と捉えて頂きたいなぁと思い、書きました。現実と架空における未来の“違い”により、このエピソードに含まれるメッセージは正反対に変化しますので(笑)そう受け取ってもらった方が、読み手としては多面性が生まれて楽しい気がします。
 ちなみに、リドル・ストーリー……皆さんはお好きですか? 僕は、結構好きなんですよね。メロディから歌詞を勝手にイメージする、洋楽と楽しみ方が似ていて。しかしダブワン全体としては「答えは僕らの胸の中に…」という感じにはしたくないと思っています。いや、僕や皆さんの中に、何者にも縛られない豊かな心がある以上、必ずしもそういう要素は出てくるし、そこを膨らませる要素は入れたいと考えておるのですが、そこに篭めたところを感じ取らなくても満足が出来るような内容にしたいです。そういう意味では、今回のLv.1に近い読後感を目指していくのかもしれませんね。まだまだ遠い話なので、断言は出来ませんが。
 
 
 2.バックログに介在するメッセージ
 『全てが“過去のもの”となった現在』にいる、竹井瑠衣とは一体何者なのか。
 混乱に乗じてメッセージを発信したこの竹井瑠衣もまた、一様に現実存在か架空存在かを断定する事が出来ない状態にあります。この項目については、Lv.2以降の考察や妄想を阻害する恐れがあるので、細かい解説は控えさせて頂きます。
 ところで、これはたいきさんの作成された考察資料を読んで初めて知ったのですが、バックログを遡るとメッセージが確認できるこの手法は、ファタモルガーナの館でも取り入れられていたのだとか! 僕は現時点ノベクタクルさんの作品を『霧上のエラスムス』しかプレイ出来ていないので、偶然に同じ手法を取り入れてしまったことになります。それを証明する手段は無いのですが(汗)僕としては、あんなにも素晴らしい“世界”や“人間”を創り上げられる方々と近しい発想を抱けたという事実に、(勝手に)ちょっぴり誇らしげな気持ちになりましたw
 
 
 3.GEAR「顔のない少女」
 竹井塔人による、姉にまつわる回想エピソード。ここに登場する竹井塔人を諫める竹井瑠衣もまた、架空と現実を判別することは出来ません。見方としては、塔人の脳内に存在する姉の姿……と捉えるのが自然でしょうか。こちらもまた2の項目に通じるところがある内容なので、細かい言及は避けます。
  
 ちなみに、GEAR「顔のない少女」では、瑠衣が小児性愛者(ショタコン)である事を匂わせる文言が存在します。
 
 
 葦野里滞在3日目には、意味不明な世界の中でトトに性行為を迫る瑠衣の姿を確認することが出来ます。この時の瑠衣の肉体(上半身)には、損壊した様子は認められません
 
   瑠衣の発狂に次いで、生じる世界の再起動後。
 
 古河零次視点で語られる後半の異世界編では、ゲーム上に登場する瑠衣のビジュアルは全て、肉体が損壊しきった状態の瑠衣が映し出されています。つまり瑠衣のビジュアルを、彼女の感情推移と共に補足していくと、概ね以下のようになります。
   
 ワンダーランド世界に住む竹井瑠衣には――事故で上半身が麻痺しているものの――正常に機能する肉体が存在しています。従来通りの立ち絵として描かれているとおりです。では、半壊した肉体の彼女とは? これはワンダーランド世界の瑠衣が、現実世界での出来事を認識した事により自覚した「現実の己の姿」が表出されたもの、と考えられるのではないでしょうか。
 葦野里滞在3日目、瑠衣は突然トトに謝罪し、洗面所にて「もういやだー」という言葉を呟いています。これらの言葉はトトに性的な暴行を行ったことに対する悲嘆の言葉であったと考えるのが自然です。従って、この悲嘆の言葉はワンダーランド世界の自分と、現実世界の自分が、同じ肉体の中に共存している状態であったことを裏付ける、ひとつの判断材料となります。
 一個の肉体を共有する、架空現実の魂。自制の効かない現実の瑠衣の暴挙に耐えかねて、理想の瑠衣はワンダーランド世界における『自己』を現実の自分へと譲り渡した。だから古河零次覚醒後は、一貫して損壊した肉体で登場する。だとすれば理想の瑠衣は、現実の自分に屈服したと考えるべきなのでしょうか?

 作中にはあえて退いたと考えられる根拠が2点存在します。
 1つは洗面所のシーンにて、それが筋書であろうと何であろうと一般に「吐き出す」以外に選択肢のない、うがいした後の水を、笑みを浮かべながら「あえて飲み込んだ」点(この行動により、ワンダーランド世界の不調和に拍車がかかりました)2つ目はご覧いただいた通り、葦野里滞在1日目(2周目)においては当初より確固たる意志を持ち、古河零次と対峙している点です。

 ワンダーランド世界の住人・竹井瑠衣は、作中の展開からどのような事実を受け止め、どのように葛藤し、どのような結論を導き出し、再び葦野里のバス乗り場の前に佇んでいたのか。Lv.1が映し出した物語を途中離脱した竹井瑠衣の決意。その思考へと至る行程が、彼女のビジュアル推移の中に滲み出ていたと考えることが出来ます。

2015.09.08 ナカオボウシ

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